擬態する動物たちのカモフラージュ技術! 自然界での生存戦略について

動物の世界には、巧妙な隠れ技を持つ生き物がたくさんいます。
森や海、砂漠など、様々な環境で生き延びるために色や形を変えたり、別の生き物そっくりに姿を似せたりして、敵の目をくらませる工夫をしているのです。このような生存戦略を「擬態」と呼びます。

今回は、その擬態の種類や使用する動物について解説します。

擬態とは?

擬態とは、生物が外見や行動を周囲の環境や別の生物に似せて生き残るための戦略のひとつで、目立たなくなって捕食者から逃れたり、逆に獲物をおびき寄せたりするために進化してきました。

例えば、カメレオンのように身体の色を自在に変えられる動物もいれば、葉っぱそっくりの昆虫や、危険な生き物に擬態して身を守る生物もいます。
自然界では常に生存競争にさらされているため、敵を欺いたり、獲物を騙したりしながら生き延びているのです。

擬態の種類と特徴

擬態にはいくつかの異なる種類があり、大きく分けると「防御的擬態」(敵から身を守るため)と「攻撃的擬態」(獲物を捕らえるため)があります。
さらに、天敵を騙す「擬死」や、他の毒を持つ生物に似せる「ミューラー型擬態」「ベイツ型擬態」などの特殊なタイプも存在します。

防御的擬態の代表例

防御的擬態を持つ動物たちは、天敵に見つからないように環境に溶け込むカモフラージュの技術を使用します。

例えばイカやタコは、色素細胞(クロマトフォア)と虹色素細胞(イリドフォア)という特殊な細胞を持っており、これを自在に操作して周囲の色に合わせて体色を変えます。
敵が近づいたときに一瞬で背景に溶け込んだり、砂の中に潜りながら色を変えて完全に姿を消したりできるのです。
中には、身体の模様を変えて敵を驚かす種も存在します。

カレイとヒラメは、体色を変えつつ砂の中に埋まって完全に姿を消し、目だけを砂の上に出して敵の動きを観察することが可能です。
特にヒラメは、砂地だけでなく岩場などにも擬態でき、捕食者から身を守るだけでなく自身の獲物に気づかれにくくするというメリットもあります。

寒冷地に住む動物であるホッキョクギツネは、夏の間は灰色や茶色の毛を持っていますが、冬になると純白の毛に生え変わります。
これは雪が積もった環境で敵に見つかりにくくするためのカモフラージュで、冬毛は厚くなり寒さにも耐えられるようになるという、気候に適応するための防御的擬態です。

攻撃的擬態の代表例

攻撃的擬態は、捕食者が獲物を騙して捕らえるために進化させた戦略であり、「待ち伏せ型の捕食」とも言えます。
攻撃的擬態を持つ生物は、獲物に見えないように隠れたり、逆に獲物をおびき寄せたりして、効率的にエサを手に入れるのです。
自然界では「食う・食われる」の関係が常に働いており、攻撃的擬態を進化させた動物たちは、狩りの成功率を上げるために独自の方法を発達させてきました。

例えば、深海に生息するアンコウは、「疑似餌」を使って獲物をおびき寄せる独特の狩猟方法を持っており、暗闇の中で獲物を待ち伏せし、釣りをするように小魚を誘導して捕食します。
アンコウの疑似餌の仕組みは、頭の上にある「エスカ」と呼ばれる発光器官を動かしてエサのように見せかけ、エサだと思って近づいた獲物を一瞬で丸飲みにするのです。
深海は光がほとんど届かない暗闇の世界で、エサを見つけるのに苦労しますが、アンコウはこの環境を利用して発光する疑似餌を持ち、獲物を効果的におびき寄せます。

擬死戦略をとる動物

自然界では「戦う」「逃げる」以外にも生存戦略が存在します。
その一つが擬死(ぎし)で、敵に襲われたときに「死んだふり」をして捕食を避ける戦略です。
多くの捕食者は、すでに死んでいるものには興味を示さずに新鮮な獲物を好むため、その習性を活かして興味をそらして生き延びるのです。

例えばオポッサムは、天敵に襲われると完全に動かなくなり、口を開けたまま横たわるという行動をとりますが、この状態はまるで死骸のように見え、捕食者は興味を失います。
オポッサムの擬死はただの「演技」ではなく、実際に心拍数が低下し、筋肉が弛緩するという生理的変化が伴い、擬死中は身体から腐敗臭に似た分泌物を出すのが特徴です。
擬死状態は数分から1時間以上続けるケースもあり、捕食者が去るまで耐え、天敵が完全に立ち去った後、何事もなかったかのように立ち上がり再び行動を開始します。

ミューラー型擬態の仕組み

ミューラー型擬態は、毒や危険な成分を持つ生物同士が同じような見た目になり、捕食者に「この模様の生き物は危ない」と学習させるという戦略です。
捕食者は一度毒を持つ生物を食べて痛い目に遭うと、次からは似た見た目の生物を避けるようになります。

例えば、南米に生息するヤドクガエルの仲間は体内に強い毒を持っており、捕食者にとって危険です。
外見は鮮やかな色を持つため「警戒色」として機能していますが、この警戒色に似た色や模様を持っていると、どの種も襲われにくくなるのです。
毒を持つ生物同士が似ることでお互いの防御力を高めるという仕組みで、単独で「毒を持つ生物」として生きるよりも、似たもの同士で警告の効果を強めて捕食リスクを減らしています。

ベイツ型擬態の戦略

ベイツ型擬態は、毒を持たない生物が毒を持つ生物に似た見た目をして、捕食者に「危険な生き物だ」と誤認させるという戦略です。
この擬態は、毒を持つ生物がすでに確立された「危険な見た目」を持っている場合、それを模倣して自分の身を守るために無害な生物が使用します。

例えばサンゴヘビは猛毒を持ちますが、ミルクヘビは毒を持っていません。
しかし、どちらも赤・黒・黄色の縞模様を持ち、捕食者は区別がつかず、ミルクヘビも避けるようになるのです。
ベイツ型擬態は「毒を持たないのに見た目だけで守られる」ので、擬態する側にとって大きなメリットがあります。
ただし、捕食者が学習して「この個体は毒を持たない」と気づいてしまうと、擬態の効果は薄れてしまう可能性もあります。

カメレオンの擬態は?

カメレオンといえば、身体の色を自由に変えられることで有名ですが、カメレオンの擬態は一般的な「カモフラージュ」とは少し異なります。
「カメレオンは背景に合わせて色を変える」と思われがちですが、実は感情や気温、光の強さによって体色を変化させているのです。
カメレオンの体色は前述したタコやイカのように、色素細胞(クロマトフォア)と虹色素胞(イリドフォア)という特殊な細胞によってコントロールされています。
これらの細胞を筋肉の動きでコントロールし、色を変化させており、敵に見つからないようにするときは茶色っぽくなり、興奮したり攻撃的になったりすると赤や黄色に変わるなど、状況に応じた色を作り出しているのです。

カメレオンは「完全に背景に溶け込む」タイプの擬態ではなく、どちらかというと感情表現や体温調整の役割が強いのが特徴です。
ただし、森林に住むカメレオンは敵から目立たない色を選び、擬態としての効果も発揮していることが分かっています。
緊張しているときは周囲に馴染む色に変化し、捕食者から見つかりにくくする、暑いときは明るい色に、寒いときは暗い色にして体温を調節する、興奮時や求愛行動では派手な色に変化し、仲間や敵にシグナルを送るなど、「擬態のため」だけではなく体温調整やコミュニケーション手段としても機能しているのです。

擬態は自然界の知恵が生んだ生存戦略

このように動物たちは、生き延びるために独自の方法で天敵や獲物を欺いています。
擬態の種類は様々ですが、どの擬態も環境に適応するために進化してきたというのが共通点です。
次に自然の中を歩くときは、もしかすると身近な場所で擬態している生物に気づけるかもしれませんね!

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