「トカゲの尻尾は切れてもまた生えてくる」というのをご存知の方は多いと思いますが、動物の中にはこのような「再生能力」を持つ種が存在しています。
今回は、優れた再生能力を持つ動物と仕組みや能力の違い、人間との関係性をご紹介します。
再生能力とは、生物が損傷や喪失した体の一部を再び作り出す能力を指します。
再生能力には二つの主要なタイプがあり、一つは「完全再生」と呼ばれるもので、失われた部分を完全に元通りにする能力です。
もう一つは「部分再生」という失われた部分の一部を再生する能力で、私たち人間の皮膚が傷を治す過程が部分再生の例となります。
完全再生の能力を持つ動物は、失った部分の見た目を元通りにするだけでなく、機能的にもほぼ同じ状態に戻せるのです。
では、高い再生能力を持つ動物にはどのような種類がいるのでしょうか?
いくつかの代表的な動物と、その再生能力について詳しく見ていきましょう。
トカゲは、冒頭の例でも挙げているように再生能力の代表格と言える存在です。
尻尾が最初から切り離せるような仕組みになっていて、これは捕食者から逃れるために自ら尻尾を切り離す「自切」が目的です。
切り離された尻尾はしばらくの間動き続け、捕食者の注意を引き、その間に逃げるというわけです。
ただし、再生される新しい尻尾は元の尻尾とは異なる構造になります。
主に軟骨で構成され、骨の構造や色が変わり、一度しか再生されません。
トカゲ以上に驚くべき再生能力があるのはイモリやウーパールーパー(メキシコサラマンダー)で、尻尾だけでなく、なんと失われた腕や脚、さらには眼や心臓、その他の内臓まで再生する能力を持っているのです。
しかも、再生された腕や脚などは再生される前と見分けがつかないくらいで、骨まで完璧なものと言われています。
これは、損傷部位の細胞が新たな組織を形成するための「脱分化」という働きができるからで、傷ついた部分に細胞が集まり、それが新しい組織に変わっていき、失った部分が元通りになるというわけです。
そのため、死滅しない限りは無限に再生できるとされています。
シカの再生能力は、毎年新たに生える角に見られます。
シカの角は毎年脱落しますが、一旦脱落したあと短期間で大きな新しい角が生えてくるのです。
再生能力は骨細胞の活動と新しい血管の形成によって支えられており、シカの健康状態や栄養状態が大きく関係していると言われています。
そのため、元気なシカほど立派な角を再生します。
ヒトデの再生能力も非常に強力で、失われた腕を再生する能力を持っています。
これはヒトデの体が持つ細胞の高い再編成能力によるもので、中央の円盤部分にある再生細胞が活性化して再生されます。
さらに、切断された腕に少しでも円盤部分の組織が残っている場合は、失われた腕から全身を再生できるため、腕から新しい個体が生まれるケースもあるのです。
プラナリアという小さな扁形動物は、体が分割されてもそれぞれの部分から新しい個体が再生します。
全身に多能性幹細胞を持っているため、新しい組織を形成できるのです。
つまり、いくつに分割されても、分割されたそれぞれが再生して同じ個体になるということです。
ある実験によると、200以上に分割してもほとんどの個体が元に戻り、脳まで再生されたと言われています。
ただし、切断された際に自身の消化液によって死滅してしまうケースがあり、再生しない個体はこれに該当することが多いようです。
また、ナマコやイソギンチャクも同様の能力があるとされています。
ヒドラは池の水草などに生息している、とても小さくて細長い触手を持つ生物で、あまり馴染みがないかもしれませんね。
ヒドラもプラナリアと同じく幹細胞が豊富であるため、体の一部が切り取られてもそこから新しい個体が再生します。
さらにヒドラの場合は、一定の間隔で再生能力を自ら使用して体の全てを入れ替えていると言われており、不老不死だという説もあります。
ミミズも体が二つに切れた場合、それぞれの部分から新しい個体が成長することがありますが、この能力はミミズの種類や損傷の程度によって異なります。
カニやエビも再生能力を持つ動物の一種で、脚や爪、触覚を再生できます。
新しい爪や脚は最初は小さく弱いですが、脱皮を通じて成長し、次第に元の大きさに戻ります。
これらの他にも、頭部のみになっても心臓を含む全てが再生されるウミウシなど、様々な再生能力をもっている動物が存在しています。
動物が持つ再生能力は、人間の「再生医療」の研究にとても役立っています。
再生医療とは、怪我や病気で傷ついた人間の体の部分を修復して元通りにする技術を指します。
動物たちの再生の仕組みを研究し、人間も同じように再生できる方法を見つけようと試みているのです。
再生能力が高い動物の多くには特別な幹細胞があります。
例えば、プラナリアやイモリ、ウーパールーパーは、幹細胞を使って体の失った部分を再生します。
幹細胞は、骨や筋肉など様々な種類の細胞に変化できるため、傷ついた体を修復するのに適しているのです。
再生医療では骨髄移植や皮膚の移植、心臓や肝臓の修復など、幹細胞を使った研究が進められています。
再生能力を持つ動物の遺伝子を調べ、人間にも必要な遺伝子を見つける研究も行われています。
ヒトデやプラナリアの再生に関わる遺伝子を解析することで、人間の細胞が再生するための重要な遺伝子がわかってきており、遺伝子治療や細胞療法への適応が期待されています。
動物の再生能力の研究は、人工的に臓器を作る技術の開発にも貢献しています。
組織工学という分野では、特別な場所に幹細胞や成長因子を入れて、新しい組織や臓器を作り出す技術が開発されているのです。
これが将来、移植手術に使われることが期待されています。
再生能力を持つ動物からは、幹細胞の他に再生を促進する物質が見つかっています。
例えば、イモリやウーパールーパーの体内には、再生を助けるタンパク質やホルモンがあり、これを人間の治療に使う研究がされているのです。
特に傷に対して人間の皮膚が持つ再生能力を高める治療法が開発されていて、火傷や外傷の治癒を早める手助けとなり得ます。
こうした研究は、動物たちの再生能力を活用し、人間の医療に新しい可能性をもたらしています。
再生医療はまだ発展の途中ですが、動物の再生能力の研究が進めば、より効果的な治療法の発見が期待されています。
動物たちの再生能力を研究することは、未来の医療技術を進歩させるためにとても重要なのです。
このように、再生能力を持つ動物たちには驚きの仕組みがあることをお伝えしました。
トカゲの尻尾、イモリやウーパールーパーの四肢や内臓、シカの角、ヒトデの腕、プラナリアの全身再生など、それぞれが独自の再生方法を持ち、バラエティに富んでいます。
これらの再生能力は、幹細胞の利用や細胞の変化、遺伝子の働きなど複雑な仕組みによって成り立っており、この研究は、私たち人間の再生医療の分野に大きな力を与えてくれているのです。
これから先、この分野の研究が進むと、さらに多くの発見が生まれるでしょう。
動物たちの再生能力をありがたく参考にさせてもらい、医学の発展に期待したいところですね!