皆さんは、ハイエナにどんなイメージを持っていますか?
有名映画などでは悪役として登場したこともあり、獲物を横取りする「厄介な動物」とイメージしている方もいらっしゃいますが、実際のところどんな動物なのでしょう。
今回は、誤解されがちなハイエナの種類や生息地から、食生活、繁殖などの生態や特徴をお伝えします。
ハイエナ科は「食肉目ハイエナ科」に属します。
ハクビシンなどが属する「ジャコウネコ科」から進化したと考えられていて、見た目は犬に似ていますが分類としてはジャコウネコに近いとされています。
ハイエナには現在下記の4種が存在します。
黄土色の体毛に黒い斑点があることから、ブチハイエナと名づけられ、または「マダラハイエナ」とも呼ばれます。
ハイエナのなかでは最大種で、体長1.6メートル、体重80キログラム以上になることもあります。
サハラ砂漠以南のアフリカに広く生息していて、サバンナ、森林、山岳地帯など様々な場所で観察されています。
生息数は約3万〜5万頭といわれていますが、西アフリカや東アフリカでは人間との衝突により多くのハイエナが死亡しているため、全体の個体数は減少傾向にあります。
日本で飼育されているハイエナの多くは、このブチハイエナです。
クリーム色の毛に黒い縞模様があるハイエナで、背中には立派なたてがみが生えていて「タテガミハイエナ」とも呼ばれています。
体長は1m、体重は50kgほどで、ブチハイエナに次いで2番目に大きいハイエナです。サハラ砂漠以北、中東、インドに生息し、草原や茂みを好み、人里近くでも観察されています。
生息数は約1万頭で、人間との接触や食料不足により、シマハイエナの数は減少の一途をたどっているため、将来的には絶滅の危機に瀕しているようです。
日本でシマハイエナを展示している施設はほとんどありません。
ブラウンハイエナは、以前はシマハイエナと同属でしたが2006年に独立した属となりました。
ブラウンハイエナは茶色い体色をしていて、「カッショクハイエナ」とも呼ばれます。
長い毛に覆われ四肢に縞模様があり、体長は約1m、体重は約40kgの細身のハイエナです。
アフリカ南部の砂漠や雑木林などの乾燥地帯に約7,000頭が生息し、その約半数がボツワナに住んでいるようです。
個体数は維持されているものの、IUCNレッドリストでは絶滅危惧種(準絶滅危惧)に格付けされ、日本では飼育されていません。
アードウルフは別名「ツチオオカミ」と呼ばれ、オオカミという名前が付いていますがハイエナの仲間です。シマハイエナ同様にクリーム色の毛で覆われ、体や手足に黒い縞模様があります。
体長は80cm、体重は10kgほどで、ハイエナの中では最も小さい種類です。
アードウルフの最大の特徴は、肉食性ですがシロアリを食べる点です。
長い舌で舐めたり噛んだりすることがほとんどないためか、とても小さな顔をしているので強靭な顎を持つ野生のハイエナのイメージとは程遠い見た目をしています。
アードウルフはアフリカの東部と南部の草原や雑木林の保護区に生息しており、日本では飼育されていません。
4種類のハイエナにはそれぞれ特徴や生態が異なりますが、ここでは日本で最も一般的なハイエナの種類である「ブチハイエナ」について詳しく解説します。
ハイエナは単体でも群れでも活動し、昼間は茂みや巣穴で休み、夜になると活動を始めます。
ハイエナのメスは男性ホルモンの濃度が高く、メスの方が大きく成長します。また、外陰部はオスの生殖器に似ており、仮性陰嚢も持っているのが特徴です。
一族のリーダーはメスで自分の群れを守らなければならないため、戦うためには攻撃的な強さと体格が必要です。
ハイエナの外陰部は攻撃性の表れと考えられていて、リーダー以外のメスもオスに対して支配的です。
リーダーとは直接関係のないメスのハイエナは、一生同じ群れにとどまり、協力し合います。
「クラン」と呼ばれるメス同士の社会集団を形成し、10種類以上の鳴き声を使い、互いにコミュニケーションをとっており、1つのクランには20~30頭、多いときは100頭以上のハイエナがいることもあります。
一方、オスは成獣になると一族から外され、別の一族に入りますが、クランに入ったばかりのオスは最下層として扱われてしまいます。
オスは生殖以外には必要ないという立ち位置で、オスにとってはとても厳しい社会なのです。
ハイエナはテレビの映像などでは獲物を横取りしたり、他の動物の死骸を漁ったりするシーンが取り上げられがちですが、狩りもします。
基本的には群れで行い、狩りの成功率は60〜70%で、ライオンの30%前後よりも高いと言われています。
ハイエナは目、耳、鼻が優れているため、獲物を探すのが得意かつ体力があるので時速約60kmで獲物を追いかけることができます。
そのため、他の動物から獲物を奪わなくても食には困らず、主にシマウマなどの大型哺乳類や鳥類を捕獲し、食べるものの半分以上は自力で捕獲していると言われています。
動物から獲物を奪うことは、体力を使う狩りよりも効率が良いためで、他の動物の獲物の横取りはハイエナだけでなく、ヒョウやライオンもやっていることです。
ハイエナの顎は哺乳類の中で最も強く、最強クラスになると450kgにもなると言われていて、硬い肉はもちろん骨をも砕くほど強いものです。
ライオンやトラに比べると体も顔も小さいものの、他の動物が手を出せないようなものを噛み砕く力を持っているのです。
また、強力な消化能力も持っていて、他の肉食動物が獲物の多くを残すのに対し、ハイエナは強力な顎と消化能力で獲物のほとんどを食べ尽くすことができます。
このため、ハイエナは「サバンナの掃除屋」とも呼ばれていて、死骸に群がり腐肉をむさぼる姿はあまり良いイメージではないかもしれませんが、実はハイエナの残飯処理はサバンナをきれいに保つために必要不可欠なのです。
ハイエナは前述した優れた狩猟技術と強力な顎もあり、サバンナの中でも強さはトップクラスに位置します。
ヒョウやチーターでも、ハイエナを見つけると獲物から逃げ出すことがあるため、ハイエナには敵が少ないのです。
そんなハイエナの敵はライオンです。ライオンとハイエナの生活圏は重なっているため、ライバル関係にあります。
狩りでは、ライオンがハイエナの獲物を取ることもあれば、ハイエナがライオンの獲物を取ることもあります。
ライオンもハイエナ同様に群れで行動しますが、これはハイエナに勝つための対策とも言われています。
つまり、ハイエナの天敵であるライオンも、ハイエナを恐れているのです。
ただ、不用意にライオンの縄張りに侵入すると、捕食されてしまう可能性が高いです。
ハイエナは3年ほどで大人になります。寿命は20年程度と長く、飼育下では40歳まで生きた例もあります。
ただし、出産時に死亡する確率が高いことでも知られています。
ハイエナの産道は狭く、胎児が通る間に母親の皮膚が裂けてしまい、出産時の傷がもとで死亡することが多いのです。
死産が多いものの、外敵はライオンだけということもありハイエナの幼獣の生存率は高いとされています。
約4ヶ月の妊娠期間を経て一度に平均2頭の子供を産みますが、前述したように母子ともに死亡することもある過酷な出産になります。
メスのハイエナは子供を産んだ後、母乳を2年間も飲ませ続け1日に何時間も一緒に過ごします。
また、同じ群れのメスは協力して子育てをし、産みの親以外のメスも授乳することがあり、育児にはとても熱心なのです。
以上、ハイエナの生態について解説しましたが、皆さんのハイエナに対するイメージは変わりましたでしょうか?
ハイエナはネガティブなイメージを持たれがちですが、サバンナで死骸を片付ける働き者でもあるのです。野生のハイエナは凶暴ですが、動物園で見られるものは人間に友好的で、かわいらしい一面もあります。
気になった方はぜひ動物園に足を運んでみて下さいね!