川に帰ってくるサケの不思議な生態! 生き物の帰巣本能について

生き物の中には、遠くまで行っても自力で元の場所へ帰ってくることができる種が存在し、これを「帰巣本能」といいます。
では、それらの生き物は、どうやって自分の居場所や元いた場所を知ることができるのでしょうか?

例えば海に出たサケが繁殖する際に、生まれた川に戻ることができるのも帰巣本能のうちの一つです。
そこで今回は、帰巣本能を持つサケの生態についてご紹介します。

サケの生態

テレビなどで、サケの群れが産卵のために川を泳いでいる映像が流れているのを目にしたことがある方も多いのではないのでしょうか。
サケはまず川で生まれ、その後海へわたり2〜6年かけて成長し、また生まれた川へ戻り子孫を残して一生を終えます。

サケは、淡水から海水へ塩分濃度が変化したときに、体内の塩分濃度が変化しないようにエラや腎臓に調節機能が備わっています。
エラから余分な塩分を排出し、腎臓で不足している水分を体内に取り込むことで、海水に適応できるのです。

では、なぜ淡水魚であるサケが海へ回遊する必要があるのかというと「海の方が餌が多いから」という理由があります。
サケは冷たい川で生まれ、そこには食べ物がほとんどなく、さまざまな餌を求めて海へと回遊するのだといわれています。
川ではサケが成長するために必要な栄養を得ることが難しい一方で、海には外敵も多いものの一年を通してプランクトンや小魚介類が豊富に存在します。
その豊富な餌を食べることで、大きく成長し、卵をたくさん産むことができるようになるため、はるばる海まで行ってくるのです。

そして成長し、産卵のために川に戻るのですが、これを「遡上」といいます。これはかなり過酷で、サケの遡上は、生存率が0.5%以下といわれています。
単純計算だと、約200匹に対し1匹しか遡上できない計算になるため、仮に1万匹を海に放流したら川に帰ってくるのは50匹程度です。

残りの9,550匹は、外敵に襲われたり、人間に捕獲されたり、病気にかかったりして戻ってくることができませんが、淡水魚が産んだ卵はその数や質量から海には向かず、海で成魚になる前に死んでしまうものが多いのに対し、川は荒れにくく、海に比べると外敵も多くありません。
特に流れが速くて水深の浅い場所が産卵場所として選ばれやすいことが分かっています。

サケの遡上の成功率が低い理由

川に入ると全く食べない

サケが遡上する際には、途中で何も食べず体内にある栄養分だけを持って産卵場所まで遡上します。
途中で栄養を補給することができないため、遡上するのに時間がかかり、途中でエネルギー切れになってしまうサケも少なくないのです。

雨季に水かさが増した瀬を遡上する

サケは梅雨の時期に遡上を開始しますが、その理由は雨で川の水位が上がらないと上流に行けないためです。
しかし、川の水量が増えるということは流れが激しくなることを意味するので、急流を泳ぎ続ける体力が要求されます。
その場合、浅瀬に取り残され、酸欠や感染症などで死んでしまうこともあるのです。

あらゆる肉食動物に捕食される

前述したように、断食状態で急流を上る過酷な遡上のため、疲れ果ててかなり弱っています。
それを狙い、サケの遡上シーズンになると捕食者たちに命を狙われるのです。
特に地上の動物たちは、食料の乏しい冬を越した後は空腹状態のため、強敵です。

このように絶食し、激流を登り、捕食者から逃れ、やっとの思いで生まれ故郷に戻っても、サケは産卵を終えると死んでしまいます。
たとえ0.5%の確率で産卵に成功したとしても、サケは生き延びることができないのです。

ご存知ない方も多いかもしれませんが、もしサケが死ななければ、森の動物たちだけでなく、自然さえも破壊されてしまう可能性が高いです。
サケが川に戻ってこなくなったら、森の動物たちはエサがなくて死んでしまいます。
そして、森の木々もサケの死骸に含まれる海の栄養分の恩恵を受けられなくなるのです。

サケが生まれた川に帰ることができる理由

サケが遡上する川のことを「母川」と言い、ここに帰ってくることを「母川回帰」といいます。
では、なぜサケは遠い海から生まれた川に帰ってくることができるのでしょうか?

これにはいくつかの仮説がありますが、最近の研究によると、サケの脳の中の器官がコンパスのように磁場を感知して、生まれた川の方向に戻ってくる説が濃厚なようです。
太陽コンパスや磁気コンパスを使っているといわれていますが、広大な海から海岸までどのように戻ってくるのかは、まだはっきりとは明らかになっていません。

海岸に着いた後は、川の匂いで自分の生まれた川を特定するといわれています。
川ごとに植生や地質の違いから水の中のアミノ酸組成が異なり、サケはそれを匂いとして記憶しているようです。

太陽や磁気コンパスを使った実験

ここでは、サケが母川回帰できるといわれている理由となっている説の一つである、太陽コンパスや磁気コンパスを主に鳥に使用した動物実験の一部をご紹介します。

太陽を使った実験

日中に移動するムクドリを使った実験では、太陽から自分の方向を知るというのが明らかになっています。
移動中のムクドリは、晴れた日には首を一定方向に振り、その方向が移動する方向と同じなのに対し、曇りの日には首を振る方向がいつも同じとは限らないようです。

また、鏡を使って違う角度で太陽を見せると、首をかしげる角度もそれに合わせてずれるという実験結果もあります。
さらに、体内時計と照らし合わせて太陽の方向も判断できたようで、この能力は特に伝書鳩に備わっているようです。

目を片方ずつ隠す実験では、「左目」を隠しても特に問題はなくても、「右目」を隠すと帰巣本能が働かない個体もあるとの報告もあります。

星を使った実験

昼間に移動する鳥が太陽の位置で自分の方向を知る一方で、夜間に移動する鳥は星を利用していると考えられています。
夜間移動するムクドリを使った実験では、空が曇っていると頭の向きがおかしくなることがわかっているようです。

また、プラネタリウムでムシクイと呼ばれる鳥を放つと、すべての鳥が一斉に南の方向の空に向かって飛んでいったという実験結果もあり、さらにそのプラネタリウムをゆっくり回転させると、その回転に合わせて動いていったとのことです。
星をどのように使っているかは詳しくはわかっていませんが、星の日周運動をとらえることで方角を把握しているとも考えられています。

磁気を使った実験

地球は棒磁石のようなもので、磁場を形成しています。私たち人間に馴染み深い方位磁石は、地球の磁場を利用して方向を知るための道具ですが、動物たちも地球の磁場が生み出す磁気を自分のコンパスで読み取ることで、曲がるべき方向を知っていると考えられています。
ハトを使った実験では、ハトの頭にコイルを取り付けて飛ばし、周囲の磁場を乱すと、晴れの日は戻ってくるものの、曇りの日は戻ってこられなくなることが分かっています。
ハトが磁気をどこで感知しているのかについては、現在も研究が続けられていて、ワニなどの他の地上生物でも同じような実験結果になった例もあるようです。

生物の帰巣本能はまだまだ謎が多い

生物の帰巣本能はまだまだ謎が多い
生き物が自然の摂理や、地球から発生する磁場を感知し、その感覚を使って移動・帰還をする能力は驚くべきものがあります。
この能力は、今回ご紹介したサケをはじめとした魚類や鳥類、コウモリなど、さまざまな生物で知られていますが、その具体的なメカニズムはまだよく分かっておらず、どの生物でも決定的なものははっきりと見つかっていません。
神秘的な部分ではありますが、今後の実験や研究が進み、謎が解明されることを楽しみにしたいところですね!

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