がっしりとした体つきにアーモンド型の瞳。地面をしっかり四肢で踏みしめて立つその姿は質実剛健そのもの―。
このような硬派な魅力で多くの人々から愛されている日本犬。
一時はコリーやラブラドール・レトリバー、シベリアン・ハスキーなど洋犬の人気に押されて目立たなくなったものの、最近では秋田犬や柴犬が海外から注目され、国内でも再び人気が復活しています。
日本犬の飼育頭数も一時期よりは増えており、柴犬を中心に街中でお散歩している姿を見かけることも多くなったのではないでしょうか?
しかし、こうしたブームの裏で、飼育放棄される日本犬も増えています。
これには、日本犬の性格や飼育方法についてしっかり調べず安易にお迎えした結果、「想像していたのと違う」と放棄してしまうことが背景にあるようです。
そこで今回は、日本犬の種類と特徴・性格、飼育の難易度、お迎えする際の注意点についてご紹介します。
日本犬とは、日本原産の純血種の犬のことをいいます。
具体的には公益社団法人 日本犬保存会が定めた「日本犬標準」に適合する6種類の在来犬種のことを指し、それぞれ体格や性格、毛色、顔つきに違いがあります。
それでは早速、6種類の日本犬について個別にみていきましょう。
体高約40cm、体重10kg前後の小・中型犬である柴犬は、日本犬のなかでも特に知名度が高い犬種です。
純朴な顔つきと飼い主さんを見つめる優しい眼差しはまさに、「昔ながらの日本の家庭犬」。飼い主さんへの忠誠心が高く、基本的には愛情深い犬です。
しかし、神経質で警戒心が強い部分もあり、飼い主さん以外の人が近くにいるとよそよそしい態度になったり、ときには攻撃的に吠えたりすることも。
そのため、子犬の頃からしつけを徹底し、他の犬と交流する経験をさせてあげると良いでしょう。
あの「忠犬ハチ公」でおなじみの秋田犬は体高60cm~70cm、体重40kg~60kgと日本犬では唯一の大型犬です。
秋田県原産で、ダブルコートのたっぷりした毛、長くて太い足、大きな顔が特徴。愛情表現が割とわかりやすいので、犬好きの方には大ファンが多いのも頷けます。
性格も素直で飼い主さんには大変従順ですが、やはり柴犬同様に神経質な面があり、もともとの気質や育て方によっては家族にも攻撃的な態度に出る場合があります。
そのため、子犬の頃からのしつけはもちろん、なるべくストレスのたまらない生活環境を与え、性格がこじれないようにお世話してあげることが重要です。
また、強いリーダーシップを発揮できる「飼い主さん=ご主人様」の存在も秋田犬には不可欠。「私が君のご主人だからね」としっかり主張できる、頼もしい飼い主さんになる覚悟がなければ飼育は難しいでしょう。
体高40cm~50cm前後、体重15kg~30kg程度の直毛に覆われた中型犬です。
名称からもわかる通り和歌山県原産の犬種で、もともとは狩猟犬として活躍していました。
賢いのでしつけもしやすく、よく訓練すれば非常に優秀な番犬になります。
落ち着いた佇まいで、陽気にはしゃぐ様子をあまり見ないことが多いかもしれません。しかし、飼い主さんの前では笑っているような表情を見せることがあり、そんなギャップも魅力の一つ。
紀州犬にもやはり日本犬特有の神経質さがありますが、子犬の頃からしっかりしつけをしたうえで社会性を身につければ、幾分穏やかな性格になることもあります。
なお、紀州犬といえば白い毛というイメージがありますが、赤毛(茶色)や胡麻(白色と灰色)もあり、赤毛の紀州犬は柴犬とよく似ています。
アイヌ民族の狩猟犬として長い間活躍してきた犬です。体高50cm前後、体重20kg~30kgの中型で、某通信会社のテレビCMに登場してからは認知度が一気に上がりました。
性格は素直で勇敢。飼い主さんの言うことはよく聞きますが、少々気が荒い子も。
お迎えする場合は誰にでも懐くタイプではない点を十分理解し、しつけをしっかり行う覚悟を持ちましょう。
「なんだかちょっと難しい子だな」との印象を与えるタイプですし、実際そのような性格の子が多いのも事実。しかし、飼い主さんとの相性が合えば、これほど素晴らしい相棒になってくれる子はいません。
顔つきは全体的にふっくらしており、成犬になっても子犬時代の面影を残しているようなかわいらしさがあります。
山梨県原産の甲斐犬は、体高40cm~60cm、体重12kg~15kgの中型犬です。黒や白、灰色などが混ざったまだら模様の虎毛が特徴で、いかにも喧嘩が強そうな見た目をしています。実際、見た目の通り気が強く、番犬としては非常に優秀です。その分、やはり警戒心が強いため、小さい子の遊び相手や社交性の高い子を求めている方には不向きでしょう。
犬の飼育初心者の方がしつける場合は難しいところがありますが、甲斐犬飼育経験者の方やドッグスクールのサポートがあれば良い家庭犬となってくれることもあります。
体高45cm~55cm、体重15kg~25kgの四国地方原産の中型犬です。
他の日本犬の中型より少し大きめで、顔つきは柴犬を少しワイルドにした感じといったところでしょうか。
赤毛や胡麻の毛色があり、胡麻の場合は全体の風貌がオオカミに似ています。
勇敢、忠実、頑固と日本犬の特徴が見事に揃っているうえ、好奇心旺盛かつ動くことが大好き。したがって、誰がボスなのかしっかり認識させてしつけを行い、毎日のお散歩で十分な運動量を確保してあげる必要があります。
「飼いやすさ」という点でいえば難しい方でしょう。それでもファンが多いのはやはり媚びない、堂々とした姿に魅力を感じる愛犬家が多いから。
なお、これら6種類の日本犬はすべて国の天然記念物に指定されています。
「うちのわんこは天然記念物なのか!」と驚かれた方。そう、天然記念物を飼育されているのです。これからも大切にお世話してあげてくださいね!
日本犬の飼育は世界中の犬種のなかでも群を抜いて難しいといわれていますが、その原因は日本犬の性格にあります。
繰り返しますが、日本犬の性格は基本的に神経質で警戒心が強く、見慣れない物・人には安易に近づきませんし、自分のテリトリーに入ってくることを好みません。
この傾向は子犬時代にしつけを徹底してもあまり薄れることがないため、飼い犬にフレンドリーさを求めていた場合は「飼うのが難しい」と思われてしまうようです。
日本犬は自我の強い個体が多く、「自分の気分・気持ち次第で判断する」といったスタンスを取ることがあります。ですから家族に心理的に依存することがあまりないのです。
これは海外の使役犬や愛玩犬にはあまりみられない傾向であり、こうした洋犬に慣れていると日本犬の飼育は難しく感じるでしょう。
日本犬は家族のなかでも「この人」と決めた、たった1人を自分のボスと決めて行動することが多々あります。
基本、多くの人との交流が得意ではないため、ボスは1人に決めたいのです。
こうなると、ボスとして認めた1人以外の言うことは聞かなくなり、他の家族は寂しい思いをすることも。
以上から、日本犬をお迎えする場合はこうした性格を理解し、受け入れる覚悟が必要です。ある意味、犬に大きな期待をしない飼い主さんにはベストなのかもしれませんね。
初心者に向いているとは言い難い日本犬。それでもお迎えすると決めた方は次の点に注意しましょう。
「投げたものを取ってくる」「いつでも側にいる」「ドッグランで他の犬と仲良くする」…といったことを日本犬には求めない方が無難です。
飼い主さんのために動くことに慣れている洋犬と同じことを無理にさせないようにしましょう。
日本犬は体を動かすことが大好きな犬種です。健康維持とストレス発散、そして日々の楽しみのためにも毎日お散歩に連れて行きましょう。
1日2回、1回30分~1時間が目安です。秋田犬は真夏以外、お散歩の時間・距離ともに長めを心がけてください。
乳幼児がいる家庭の場合は日本犬のお迎えタイミングに注意が必要です。
乳幼児の泣き声や触り方で機嫌が悪くなって噛んでしまうことも考えられるため、お子さんがもう少し成長してからの方が良いでしょう。
生後2ヵ月から、遅くとも4ヵ月までにはしつけをスタートさせましょう。
しつけに自信がない場合はドッグスクールが開催しているパピートレーニングに参加するのも手です。
また、しつけが徹底されないまま成犬になってしまった場合でも問題行動を改善するためのトレーニングクラスがあるので、諦めずに専門家であるドッグトレーナーに相談することをおすすめします。
日本犬に限りませんが、お散歩中店先に愛犬をつなぎ、そのまま店内でお買い物をするのはやめましょう。
子犬の場合は盗まれることがありますし、成犬の場合は他の人を噛んでしまう可能性があります。
昔から日本犬は庭の犬小屋で飼われているパターンが多いですが、実は室内飼いがベスト。極端な暑さや寒さに晒されるとストレスになります。
日本犬は皮膚病にかかりやすいので日頃から注意深く観察してください。毛がごっそり抜けていたり、痒がっていたりする場合は動物病院で診察を受けさせましょう。
皮膚疾患を放置しておくとストレスがたまり、怒りっぽくなることがあります。
日本犬の種類と特徴・性格、飼育の難易度、お迎えする際の注意点についてご紹介しました。
動物はかわいいだけではありません。特有の野性味溢れる性格や習性をどこかに必ず持っているのが動物であり、お迎えするのであればその点を最初からしっかり認識しておく必要があります。
動画サイトに登場するようなかわいらしく、忠実な日本犬の姿だけを追い求めてお迎えすることはやめましょう。