人によって満足できる食事の量には当然差があります。どれだけ空腹であっても1杯おかわりすれば満足できる場合があれば、5杯食べても足りないこともあるでしょう。こうした差はその人の体型や普段からの生活習慣、体質などで変わります。
これと同じように、動物にも生息している地域の環境や習性などにより「大食」「少食」が存在し、大食に分類される動物の中には1日の食事量が数百キロに及ぶものがあります。一部では餌代で経営難に陥る動物園も!
そこで今回は、びっくりするほどよく食べる動物や、意外にも大食いの体の小さい動物、動物園のサポーター制度などについてご紹介します。
私たち人間を含め、生物には体を作り、動かすための燃料、つまり食料が必要です。
生命維持に必要な栄養や食事の量は動物によってさまざまで、動物によっては人間の食事量からは想像できないほど大量に食べる種類がいます。
わかりやすい例では体が大きい動物がこれに該当し、食事量は他の動物と比べると多い傾向にあると言えるでしょう。
大きな体に長い鼻と優しい目が特徴のゾウは、草食動物の中でも飛び抜けて食事量の多い動物です。1日に食べる草や野菜はなんと100kg近く! この量を10時間以上かけてモグモグと食べるのです。
ですから、動物園では口をモグモグさせているゾウを頻繁に見かけますが、それでも動物園のゾウの食事量は野生と比べて少なめ。野生であれば200kg食べるゾウも決して珍しくはありません。
ゾウの体重は5トン、大きな個体になると10トンにもなるため、この巨体を維持するにはこれだけの量を食べ続ける必要があります。
しかし、人間の飼育下にあるゾウはどうしても運動不足になりがち。肥満になればこまめに体を動かしてダイエットさせます。適正体重を維持させるだけで寿命がグッと伸びるのですから、「人間も動物もメタボは要注意」なのですね。
身長約2m、体重400キロ~600キロほどのラクダも、見た目通りしっかり食べる動物です。ラクダがモグモグ食事している場面を想像できない方が多いかもしれませんが、ラクダの1回の食事量は30キロ~40キロにも及びます。
食事の内容は基本的には植物で、砂漠にある植物なら好き嫌いせずパクパク食べます。
そして、1回で飲む水の量はなんと約100リットル! 飲んだ水は胃に蓄えられたり、血中に流れたりして水分を体内に効率的に取り込みます。こうした体の機能は、寒暖差の激しい過酷な砂漠の環境を生き抜くために体が最適化した結果なのかもしれませんね。
なお、ラクダのトレードマークである「こぶ」の中に入っているのは水でも食べた食事でもなく、脂肪です。
海洋生物の中では最大の体を持つクジラ。なかでもシロナガスクジラは体重160トン~200トン、体長は約30メートルにもなり、地球上では最大の生物です。
食べるのは主に小魚やオキアミ(甲殻類の一種)ですが、その量は1日で5トン前後。海岸に打ち上げられたクジラを解剖すると大量の小魚が出てくるのはこのためです。
一方、人間にも「痩せの大食い」という言葉があるように、動物にも体の大きさの割にたくさん食べる動物がいます。
身近なところではウサギが挙げられるでしょう。
ウサギは草食なので低カロリーの牧草や野菜を中心に食べますが、主食は牧草。
1日にちょこちょこ牧草を食べ続けるため、小さな体で1ヵ月に3キロ~5キロの牧草を消費するのです。スーパーで販売されている袋に入った3キロのお米相当分の牧草を黙々と食べるのですから、やはり大食いと言えるのではないでしょうか。
寒冷地の海辺に多く生息するイタチ科の動物、ラッコも大食いの動物です。
動物園や水族館でもお馴染みの動物で、背泳ぎしながら好物の魚介を食べる姿は大変人気があります。
そんなラッコですが、実は大食いとして有名なのをご存知でしょうか?
なんと1日に5キロ~10キロも食べるのです。体重が40キロほどなので、体重の約4分の1は食べている計算に。この食事量を確保するため、野生のラッコは1日の大半を餌探しに費やして黙々と食べ続けているわけですが、それには寒冷地に生息する動物ならではの理由があります。
ラッコは寒さで命を落とさないよう、食べて体温を維持しなければならないのです。寒い地域で生きる限り、たくさん食べ続けて体を守る。これがラッコに与えられた運命なのです。単なる食いしん坊というわけではありませんので、この点はどうか覚えておいてくださいね。
ただ、動物園で飼育する場合は餌代が高額になることは事実。しかも、ラッコの好物はホタテやエビ、ウニ、アワビなどの高級魚介が多いため、動物園や水族館を経営する上では悩みの種でもあります。
ちょこちょこ走るペンギンもラッコと同様に動物園や水族館の人気者ですが、こちらもやはりたくさん食べます。
ペンギンが1日に食べる食事量は1キロ~1.5キロ。体重10キロ程度の大きさでこの量を食べるのですから驚きですが、これが換羽期前になるといつもの倍に増えます。換羽期に入ると羽毛が抜けて防寒防水対策ができないため、水に入って餌を獲らなくてもいいよう、あらかじめ大量の餌を食べておくからです。
主食は魚介で、アジやサバ、サンマ、イカなどを丸呑みで食べます。飼育施設でも餌の調達や保存に苦労するため、もし個人がペンギンを飼育する場合は相当な覚悟が必要でしょう。
土の中でトンネルを作りながら生活しているモグラ。
体長20センチ前後、体重約100グラムのぐんずりむっくりした体型ではあるものの、体はそこまで大きくありません。しかし、モグラは非常に食欲旺盛な生き物であり、半日食べないと死んでしまうとの話があるほど。とにかく、土の中をずんずん進みながら昆虫を食べまくるのです。
そのため、モグラは畑や庭を愛する人々から「益虫のミミズを食べてしまう憎いヤツ」として目の敵にされています。一方、モグラも生きるためには食べなくてはなりません。こうして、今日もどこかで人とモグラのバトルが繰り広げられているのです。
大食漢ともなれば当然ついて回るのは食費の問題です。人間に飼育されている動物の場合は餌代が重くのしかかってくることは間違いないでしょう。
先ほどご紹介したゾウやラッコはその典型的な例ですが、コアラやパンダも負けてはいません。
コアラはユーカリの葉しか食べないことでよく知られていますが、このユーカリの葉は高額です。しかもコアラは1日の大半を食べて寝て過ごすほど大食漢なので餌代はかさむばかり。コアラの年間の餌代は数千万円にも及ぶといいますから、やむを得ず手放す動物園も出てくるでしょう。
しかし、高価なユーカリの葉だけを食べるのはコアラの習性であり、どうしようもありません。
幅広い世代に人気があるパンダも、コアラと同じく高額な餌を大量に食べる動物です。パンダは雑食ですが、食事のメインは笹と竹。パンダの好みの笹と竹は数種類の上質なものに限られているうえ、輸送費が加わるため高額です。そして、この笹と竹を1頭で1日20キロほど平らげるので餌代は年間で1000万円近くに。
したがって、経営がうまく行っている動物園でなければパンダの飼育は難しいのです。
上記のような事情から、最近では規模の縮小、動物の譲渡を進める動物園も増えています。もちろん、餌代だけが経営圧迫の原因ではありませんが、来園者が減ると餌代が重くなるのは事実。
このため、最近では一般から幅広く寄付金を募る「サポーター制度」を採用する動物園が急増しています。
動物園を応援するサポーターになれば、年間パスポートや機関紙がもらえるメリットもあるので、動物園が好きな方はぜひ、動物たちの命を支えるサポーターになってみてはいかがでしょうか。
びっくりするほどよく食べる動物や、意外にも大食いの体の小さい動物、動物園のサポーター制度などについてご紹介しました。
動物にとって、大食いか少食かはこの世に誕生したときから習性として運命づけられています。これも生きる環境や動物界での立ち位置などに合わせて最適化した結果なのですから、大食いの動物であればたくさん食べた方が「正解」なのでしょう。
「そうなるには理由がある」――。
動物たちの食べ方を見ていると、そんな自然の摂理に気付かされますね。