元気よく走り回る子犬や子猫を見て、「あの子にしよう」と心に決めた日から待ちに待ったお迎えのとき。幸せな気持ちで自宅に連れて帰ったものの、元気がなく、餌も食べずに隅っこでじっとしている-。
お迎えした日から早々体調不良になる子犬・子猫を前に、心配でいてもたってもいられない飼い主さんが後を経ちません。
しかし、新しくお迎えした子犬・子猫がこのような状態になってしまうことはよくあることで、これを「ニューオーナーシンドローム」と呼びます。
そこで今回は、ニューオーナーシンドロームの症状と原因、飼い主さんが注意すべきポイントなどを解説します。
新しくお迎えした子犬・子猫が体調不良になってしまうことを「ニューオーナーシンドローム」といいます。
ペットショップやブリーダーさんの元にいた頃はとても元気だったにもかかわらず、自宅に連れてきたとたんに元気をなくしてしまうのですから、飼い主さんにとっては大変ショックでしょう。
ニューオーナーシンドロームの原因は環境の変化によるストレスです。
もともと、動物は人間以上に環境変化に敏感ですが、生まれて間もない子犬・子猫は一層この傾向が強く出るため、心身のバランスを崩してしまうのです。
また、強いストレスにさらされると体の免疫力が低下し、さまざまな病気にかかってしまうこともニューオーナーシンドロームではよくあること。
こうしたことから、ペットを飼い始める方が多くなる春は、子犬・子猫の診察が非常に多くなる傾向があります。
ニューオーナーシンドロームの症状としてよく挙げられるのが食欲不振、嘔吐、下痢、倦怠感です。
また、免疫力が低下した結果、皮膚糸状菌症(通称「犬カビ」「猫カビ」)や風邪などの感染症にかかりやすくなることも特徴の一つ。
症状のなかでも要注意なのは嘔吐と下痢です。体から水分と栄養が出ていってしまうため、脱水症状と栄養失調を招き、命を落としてしまう恐れさえあるのです。
万が一、お迎えしたばかりの子が嘔吐と下痢を何度も繰り返しているようであれば、早急に動物病院を受診させましょう。
弱々しくなった小さな体を見て、「自分がいけないのではないか」「何がいけなかったのか」と悩む飼い主さんもいらっしゃるでしょう。
ニューオーナーシンドロームには「ニューオーナー=新しい飼い主」との言葉もありますし、これを聞いただけではやはりご自身を責めてしまうかもしれませんね。
しかし、ペットに優しく丁寧に接している限り、飼い主さんの責任ではなく、あくまで新しい環境によるものなのです。
また、ペットショップやブリーダーさんの飼育方法に疑問を抱く場合もあるかもしれませんが、まずは冷静になってニューオーナーシンドロームの可能性の方を先に検討しましょう。ペットショップの方やブリーダーさんがいくら大切にお世話していても、環境がガラッと変わってしまえば体調不良は起こりうるからです。
ニューオーナーシンドロームの症状は、その子の性格や元々の体の強さも関係しますので、飼い主さんはできるだけ大らかな気持ちでいるよう心がけましょう。
子犬・子猫が新しい環境に慣れるまで、少なくとも1週間~2週間はかかります。
つまり、この期間に飼い主さんがどのように対応するかによって、ニューオーナーシンドロームを乗り越えられるかどうか決まると言っても過言ではありません。
ちょうどペットをお迎えしたばかりの方や、これからお迎えを検討している方も、自宅に子犬・子猫を連れてきてからの1週間~2週間は次のような点に注意してください。
お迎えした日からしばらくは、できる限り静かな環境を作るよう努力しましょう。動物は音に敏感なので、大きな音・不快な音には恐怖心を持ってしまいます。
小さなお子さんがいらっしゃるご家庭の場合は、ペットに誰もいないお部屋やお子さんの声が聞こえにくい場所を確保してあげて、ストレスを与えないようにしてください。
まだ飼い主さんだと認識できていない時期に過度なスキンシップを取ろうとすると、ペットは強いストレスを感じてしまいます。
あまりのかわいらしさについ、「モフモフしたい!」となる気持ちはわかりますが、ここはグッとこらえましょう。お子さんがいらっしゃるご家庭では、この点を粘り強く説明してあげてください。
しばらくの間はペットショップやブリーダーさんの元で食べていた餌を与えましょう。食べ慣れていない餌ではまったく口をつけず、栄養不足になってしまいます。
なお、この先も餌を切り替える際は、段階的に新しい餌へ移行させてください。餌の材料によっては体に合わず、下痢になってしまうことがあるからです。
自分の身を囲うものがあると何となく安心感があるものですが、それは動物にとっても同じ。お迎えしてから数日間は子犬・子猫をケージやサークルの中に入れて、静かに様子を見守るようにしましょう。環境に慣れてくると、ケージやサークルから出たがる子もいます。
可能であれば、ペットショップやブリーダーさんなどの元から自宅に連れて帰る際の方法にも注意したいところです。
大きな音や振動でストレスを与えてしまわないように、人の多い大きな駅や揺れが激しい移動手段の利用はなるべく控えましょう。例えばペットと飼い主さん専用のペットタクシーなら、ストレスの元を最小限に抑えてくれるので安心です。
新しい環境に慣れないまましつけを始めることは子犬・子猫に酷です。慣れてからでも遅くはないので、飼い主さんはしつけを急がないようにしましょう。
人間の赤ちゃんと同様に、子犬・子猫にも長時間の睡眠が必要です。ぐっすり寝ているときは声をかけたり触ったりしないようにしましょう。
ただ単に寝ているだけなのか、それとも体調不良でぐったりしているのか、飼い主さんとしては判断が難しいところですが、呼吸が苦しそうだったり、体が震えていたりしなければ寝ていると判断して良いでしょう。
前述の通り、ニューオーナーシンドロームは子犬・子猫にありがちな症状ではありますが、油断すると命にかかわります。
長い間ぐったりしている、水や餌に口をつけた形跡が見られない、血便、嘔吐が続くといった場合はすぐに動物病院を受診させましょう。
深夜でも朝まで待たず、最寄りの夜間救急動物病院へ急行してください。
子犬・子猫は体が弱いため、お世話には大変な手間がかかります。
この点をしっかり理解した上でお迎えしないと、飼い主さんとペット双方にストレスがかかり、お互いに良いスタートを切れません。
そのため、ペット初心者の方にはあえて成犬・成猫をおすすめすることがあります。
犬と猫の場合は「小さい頃から飼わないと懐かない」との説が根強いため、やはり子犬・子猫を希望される方が多いのが現状です。しかし、実際は成犬・成猫からでもきちんとお世話すれば、ちゃんと飼い主と認めて懐いてくれます。
また、成犬・成猫は成長が終わり、体がある程度強くなっているため、子犬・子猫より健康管理が比較的楽であるというメリットもあります。
これからペットのお迎えを検討している方はぜひ、成犬・成猫も選択肢に入れてみましょう。
ニューオーナーシンドロームの症状と原因、飼い主さんが注意すべきポイントなどを解説しました。
お迎えした子と飼い主さんはこれから長い間時間を共にしますので、第一印象は良くしたいもの。「ここにボク・ワタシの居場所はない」なんて思われないよう、適度な距離を取りつつ、優しく迎えてあげてくださいね。