自宅で愛犬や愛猫にじっと見つめられるとき、「動物の目には飼い主や周囲がどのように見えているのだろう」と疑問に思う方は多いのではないでしょうか。一般的に「動物の視力は人に劣る」といわれていますが、実際は動物の種類によって見え方に大きな差があり、一括りにして語れません。
そこで今回は、動物の視力や見え方について解説します。
「動物の視力は人に劣る」とは昔からよく耳にする話ですが、実際のところは動物の種類によって異なり、なかには人間の視力を遥かに超える動物もいます。その代表的な例が鳥類です。
たとえば、鋭い口ばしと爪で地上の獲物を狩る鷲(ワシ)や鷹(タカ)の視力は人間と比べて6倍~8倍あるといわれており、数キロメートル先の地上の動物を簡単に見つけてしまうほどです。
また、ダチョウの眼球は脳よりも大きく、視力はなんと20を超えるともいわれています。
「視力20以上」とは、40メートル先を歩いているアリがはっきり見えるレベルですから、「見る力」において私たち人間は完敗なのです。
それもそのはず、鳥類の視細胞は150万個ほどありますし(人間は約20万個)、視野は軽く300度を超えます。その上、人間には見えない紫外線まで認識するため、鳥たちが見ている世界はとても鮮明かつカラフルである可能性が高いのです。
イルカは非常に知能が高い動物として知られており、水族館のイルカショーのように特殊なトレーニングを施せば、人間が出す指示に従って行動してくれることがあります。
このことから、イルカの視力は人間の手振り身振りによる指示が一つひとつはっきり見えるほど良さそうに思えますが、実はそれほどでもありません。イルカの視力は0.1ほどなのです。
視力0.1は見る対象物がある程度大きくてもぼやけて見えるため、人であれば眼鏡やコンタクトレンズを使って矯正しなければ日常生活に支障が出る場合もあるでしょう。
しかし、イルカには超音波を出して周囲にある動物や物、距離などを把握できる能力があるため、それほど視力が高くなくても状況や空間の判断は可能なのです。
ペットの代表格である猫と犬の大きな瞳は一見視力が良さそうにみえますが、どちらも視力は0.2ほど。イルカと同じく、近くにある物でもぼやける見え方であり、人であれば矯正が必要な視力といえるでしょう。
また、犬と猫は色の識別能力が高くありません。そのため、どれだけ色彩豊かな光景が目の前に広がっていてもセピア色のように色褪せて見えるのです。
しかし、犬と猫の目には入ってきた光を倍増させるタペタムと呼ばれる反射板の機能が備わっているため、暗闇でも人や物はきちんと認識できます。
さらに犬と猫には非常に高い聴覚と嗅覚も備わっている分、見える景色が色褪せていてもそれほど弱点にはならないのかもしれませんね。
なお、犬と猫にも加齢や病気による視力の低下はあります。そのため、動物病院では目の傷を保護・治療したり、視力を矯正したりするためのペット用医療コンタクトレンズを処方することがあります。
「恐る恐る歩いている」、「家具や物にぶつかる」、「ちょっとした物音にびくびくする」といった症状が現れた場合は視力が低下している可能性があるので、早めに動物病院で診察してもらいましょう。
最後にご紹介するのはお寿司や屋台のB級グルメでおなじみのタコです。
タコの目は腕の付け根部分に二つあり、視力は0.7ほどあるといわれています。魚の多くは0.2ほどですから(マグロやカツオは0.4程度)、タコの視力が海洋生物の中では良い方だとわかりますね。
また、タコは脳が非常に発達している生物でもあるので、今後、視力と知能を連動させて私たち人間が驚くような行動をするかもしれません。タコの体の構造や生態はまだ解明しきれていませんが、タコに対するイメージが覆るような新しい発見にはぜひ期待したいものです。
動物の視力や見え方について解説しました。動物にはもともと与えられた身体能力の条件で生き抜く力が備わっています。つまり、たとえ視力が弱くても、それは「より良くカスタマイズされた結果」なのです。
このような合理的な体の構造は私たち人間に、それぞれの個体が持つ生命力と生物の神秘を知るきっかけを与えてくれるのではないでしょうか。